こんにちは、ぱぱ記者Kenです。
突然始まる生歌を聞かせることで話題のハンガリーパビリオンですが、実は2階にあるレストランMiska Kitchen & Barも密かに人気なんです。
そんな人気のMiska Kitchen & Barの理由を探るべく、エグゼクティブシェフのヴィダーク・ゾルターンさんにインタビューを敢行。人気の理由を聞き出してきました。
インタビューに応じてくれたヴィダーク・ゾルターンさんは、実はハンガリーではテレビ番組にも出演する人気者のスターシェフなんです。見た目もクール、優しそうな笑顔の中にプロの厳しさを感じる瞬間があったり。そしてシェフとしては約40年の経験を誇り、ハンガリー国内では揺るぎない地位を築いています。そして伝統を尊重しつつも、独創的なアレンジを加えた料理を提供しています。
そんなヴィダーク・ゾルターンさんにハンガリー料理について尋ねてみました。
Q)ハンガリー料理とは?ハンガリーは、オスマントルコやオーストリアを支配していたハプスブルク家の影響を強く受けた結果、隣国からパプリカや肉料理などが入ってきました。近隣諸国やこの土地を支配した文化がうまく混ざり合っているのです。ハンガリー国内の東部は大平原で、農業が中心。土着の農民文化とハプスブルク家の影響が融合した独特の食文化を育んでいたりします。
そういう背景があって、ハンガリー料理は豚や牛、羊などの家畜をよく食べ、鹿や猪などの野生動物も祝い事などで食べたりする肉食文化です。
また、育てやすいということでパプリカの栽培が根付いたことから、広くパプリカを使った料理が普及しています。生で食べたり料理に使ったり、漬物にしたりと何にでも合って使いやすい存在。その中でも現在ではパプリカパウダーが調味料の中心で欠かせない存在になっています。日本で言えば醤油や味噌の様な存在です。
Q)ハンガリー料理は煮物が多いのか?まずレストランのメニュー構成を選ぶ時、日本で調達する材料を使うので、それで何が作れるかを考えてメニューを選びました。
ただ、ハンガリー料理は煮込み料理が多いのも事実。ハンガリーでは、昔は遊牧民だったので、家畜を飼っていて必然的に肉を使った煮込み料理が多くなったという経緯があります。
しかし、煮込み料理は時間がかかるので、家庭ではMiskaで提供している様な料理を食べているかというとそうではないです。牛肉を使った料理は調理に何時間もかかるので、一般家庭ではあまり料理しませんが、鶏肉だと時間もかからないので家庭でも料理に使われます。
レストランで提供されているメインディッシュの例
ヴァダシュ、キャロットバリエーション、ブレッドダンプリング(牛肉)ヴァダシュとは、じっくり煮込んだ牛ほほ肉を、アンチョビ、ケッパー、にんじん、セロリアックを使った甘酸っぱいソースで仕上げた伝統料理。
キャロットバリエーションとしてキャラメリゼしたにんじんが添えられ、料理の甘みを引き立てる。
パセリを効かせた「ブレッドダンプリング(小麦粉、卵、パンを使用)」が、ソースと相性抜群。
パプリカチキンと卵入りガルシュカ(鶏肉)サワークリームとパプリカソースで煮込んだ鶏むね肉(手羽や骨付き部位を使用することも)。
卵入りガルシュカとは、小麦粉、卵、水で作ったハンガリーの伝統的なパスタを軽く炒めた卵と混ぜ合わせ、オーブンで仕上げた一品。
Q)Miska Kitchen & Barの料理は家庭料理とは違う?家庭ではマネしにくい手間のかかった料理を提供しています。ハンガリー料理も色々と幅広くありますが、日常的に食べる料理は、レストランで提供するものほど手間をかけたものは出来ないので、野菜のシチューなど比較的短時間、例えば30分で作ることができるものが主流になります。
しかし、煮込み料理は重いし手間がかかるので、最近は若い人たちが煮込み料理などの伝統料理を作りませんし、食べなくなってきています。サラダやより簡単に調理できるものを好む傾向があります。それでもパプリカ系の材料を使った料理がハンガリー料理の代表的な料理なのは間違いないので、Miskaはそういう料理を中心に提供しています。
Q)シェフのオススメのメニューは?「ホルトバージ風 肉入りクレープ」というクレープの料理がお薦めです。
ホルトバージ風 肉入りクレープ(鶏肉)伝統的なハンガリー料理で、鶏もも肉の煮込みを詰めた塩味のクレープ。
パプリカ風味のソースがたっぷり染み込み、サワークリームとパプリカソース、焼きパプリカ、セミドライトマトが添えられる。
クレープを使った料理は、ハンガリーの家庭料理でもあるのですが、Miskaは、調理法を工夫して特別な作り方をしていて、クレープを使っていても他で提供されるものとは違った料理として提供しています。材料は鶏肉で同じですが、調理の仕方で全く違うものになっていると言えます。
ホルトバージ風 肉入りクレープには、鶏肉の煮込みとフライが入っていますが、家庭ではフライを入れることはありません。ソースもさっぱり系のものがあって、手の込んだ作り込みをしたオシャレな一品になっています。
Q)材料はどこから仕入れているのか?業者に頼んでいますが、最初にいろんな種類を持ってきてもらって、自分で吟味してどれが一番良いかを選んでいます。日本の材料を使っていますが、冷凍したものなどは使っておらず、手間をかけています。入手できるものを活かして、工夫を凝らすことで日本の素材でハンガリーの味をどうやって出すかを考えています。
Q)パプリカについては?パプリカはいろんなパプリカがあってパウダーも赤ピーマンも広い意味ではパプリカになります。とにかくパプリカパウダーに拘っていて、ハンガリー産のものが一番なので、ハンガリーから持ってきました。
Q)シェフから見て来客が意外な反応をしたものはあったか?ハンガリー料理でパプリカ以外によく使うのが乳酸菌で、サワークリームやカッテージチーズなどはハンガリーの家庭では冷蔵庫にいつも入っているものです。しかし日本人にはあまり見たことがないものなので、お客さんは面白いものだと思っている様でした。「こんな味だったのか」とコメントしてくれることもありました。
デザートでカッテージチーズの団子を提供していますが、日本では見たことがないので珍しがっています。「カッテージチーズでこんなことできるんだ」と、想像していない使用方法だったので驚いている様でした。
カッテージチーズ団子とフルーツゼリーセモリナ粉、卵、少量の砂糖を加えて作った柔らかいカッテージチーズを使用した団子を香ばしく炒ったヘーゼルナッツとパン粉に絡み、カリッとした食感をプラス。
甘酸っぱいフルーツゼリー(ラズベリー等)を添え、さっぱりとした味のアクセントに。
Q)ワインの人気は?ハンガリーワインは世界一だと思っています。ハンガリーは小さい国ですが、気候も土壌も地域によって違うので、各地域で生産するワインの味に個性が出ます。全部で22のワイン産地があり、ワインは土壌で味が決まるので結果的に様々なワインが出来上がっています。
ハンガリーワインの中で、日本人が知ってるとしたら貴腐ワインでしょう。ハチミツみたいに甘いワインで、貴腐ブドウというブドウを使っていて、秋に収穫せずに放っておいて腐敗させると、水分がなくなってレイズン状になります。そこに菌が着くことで甘くなります。
貴腐ワインはデザートワインになるので、たくさん飲むものではありません。料理とペアリングさせるとフォアグラなどにはよく合います。世界3大ワインの一つにも数えられている特別なワインで、Miskaでも飲めます。ただ値段は張りますが。
この赤ワインは、Big Band、直訳すると「雄牛の血」という名前で一番有名なワインかもしれません。
土着品種のブドウを最低3種から5種混ぜたもので、それぞれの地域のルールがあり、それに沿って、混ぜるブドウの種類や数、品種などルールに従った作り方をする必要があります。
複数のブドウをブレンドするので生産されるワインは毎年味が違うし、生産者やワイナリーによっても味が違っています。いろんなブドウをブレンドすることによって、いろんな味が楽しめてるだけでなく、口の中で長く味わえます。
Q)ハンガリー人にとってアルコールはワイン?ハンガリー人が好んで飲むのはフルッチ。ワインのソーダ割で、夏に暑くなるとフルボディーの重いワインをソーダで割って飲むのが好きです。割る時に使うソーダの量は様々で、その分量ごとにユニークな名前が付けられています。
実際に多くの人が飲む場合の割合はこの辺り。
Q)日本のお客さんにメッセージハンガリーの本場の味を味わってもらいたくて、毎日頑張っているので、それを味わいにきてほしい。
インタビュー後、開店に向けてキッチンで準備を始めたヴィダーク・ゾルターンさんが、即興でパプリカにカッテージチーズを挟んだ一皿を作ってくれました。
これはメニューにある「冷製パプリカのカッテージチーズ・クリーム詰め、トマトサルサ」の簡易版とでも言えばいいかもしれません。
冷製パプリカのカッテージチーズ・クリーム詰め、トマトサルサグリルしたパプリカに、キャラウェイシード、コショウ、マスタード、塩、ディル、パプリカパウダーとレモンの皮を効かせたスパイシーなチーズクリームを詰めもの。
トマトサルサは細かく刻んだトマトにスパイスとオレンジを加え、その爽やかな酸味が料理のアクセントに。冷製の前菜として、食欲をそそる一品。
数ある万博会場内のレストランの中でも、実際に現地からシェフを招聘してきてキッチンを任せているところはそんなに多くありません。そんな中、ハンガリーパビリオンのMiska Kitchen & Barは、本気度が違って、「他とは違う」、「本物のハンガリー料理を提供している」という強い自負を感じました。ヴィダーク・ゾルターンシェフもコメントしてくれている様に、現地に行かないと食べられない本格的なハンガリー料理が提供されているので、列に並んでも食べる価値のある料理だと言えるでしょう。

