こんにちは、ぱぱ記者Kenです。

We are ONEというコンセプトでラトビアとリトアニアが共同で出展しているバルトパビリオン。以前にもパビリオン自体は取材して取り上げていますが、今回はラウラ・スラヴィニャ（コンセプトデザイナー）とアーサー・アナルツ（アーティスト、デザイナー）によるパビリオンガイドツアーがあるということで、改めてバルトパビリオンを訪問し、お二人のガイド付きツアーに参加してみました。

結果は、館内をみて回るだけではわからない制作の裏側など様々な気づきや発見がある時間になりました。

エントランスファサードツアーは、パビリオンの外から始まり、エントランスのファサードの紹介がされました。
このエントランスのファサードには、4言語で意味深い言葉を映し出すスマートガラススクリーンが設置されています。日本の伝統的な障子を思わせる格子柄になっていて、来場者が列に並んで入館を待つ間、「共同体」「自然」「世界」「共創」「自由」「地球」といった言葉をラトビア語、リトアニア語、日本語、そして英語でインタラクティブに読むことができ、パビリオンのテーマや言語への短い導入となっています。

スマートガラスに電気や熱で信号を送ることで、ガラスの透明度を変化させて、後ろに隠された文字が見えたり見えなくなったりする仕組みです。これはテクノロジーと自然、そして人間がうまく協力した結果だと言えます。パビリオンを構築した際のアイディアは自然とテクノロジーの融合でしたが、この3つの要素が活用されることが大事で、どれかが抜けてもうまくいかないのです。

両国はそれぞれの言語を持っていますが、以前も紹介しましたが、バルトパビリオンの中では英語が共通言語として使われています。どちらの言語も世界一古い言語に数えられ、他の言語とは全く違った言語になります。
また、それぞれに使う言語は違っても、ウェルビーイング、サステナビリティー、ヒューマニティーは人々にとって大事なものだという想いは同じだということも伝えています。

映像による物語パビリオンに入ってすぐ出会う映像コンテンツは、一般の人たちが撮影した映像をSNSなどを介して集めたもの。プロではなく、一般人が各々が自由に撮影していた映像を集めて紹介しているので、両国の本当の姿がみることが出来ます。

参加型植樹プロジェクトこのパビリオンの中で、最も人気なのが木を植える「参加型植樹プロジェクト」という取り組み。ラトビアでは国土の半分以上が森や森林で覆われていて、それを守るのはとても重要なことです。パネルにタッチして好きな木の種類を選んで登録すると、実際に現地で選んだ種類の樹木の植樹をしてくれ、その後、その木が育っていく様子を情報で追える様になっています。

この取り組みは、ライフサイクルアセスメント（LCA）に繋がっています。パビリオンのライフサイクル全体（製造、6か月の運営、解体）を対象としたライフサイクルアセスメント（LCA）の結果、96,056.44 kgのCO₂換算排出量があることがわかっています。主な要因は航空輸送です。
しかし、パビリオンの植樹プロジェクトによって、このカーボンフットプリントは十分に相殺されています。4月23日には、大阪の「絆の森」がラトビア‧テールヴェテ州立森林自然公園で開園し、その「絆の森」が遠く離れていてもバルトパビリオンの一部となりました。植樹された樹木（カバ89,304本、マツ 116,399本、トウヒ 65,148本）によって吸収される炭素を考慮すると、総炭素収支は –2,234,520.75kg CO₂換算となり、実質的に二酸化炭素排出を大幅に削減しています。

パビリオン内でパネルにタッチしているだけではピンとこないですが、裏では温暖化対策として CO₂の排出量を大幅に削減しているのです。

天然の薬局バルトパビリオンの中心は天然の薬局です。20人以上の植物採取担当者がバルト地方で採集してきた草原植物が約300種類あり、採取後に乾燥させて日本に持ってきています。展示されているそれぞれの植物の情報が提供されているので、その特性について学ぶことができます。世代を超えて受け継がれてきた薬効は、健康やウェルビーイングに関する知見を提供し、伝統的な知恵は両国の民間伝承に広く記録されており、現在ではイノベーションの分野としても発展し、製薬やバイオコスメ産業に貴重な知見となっています。

植物は、それぞれ違う地域から集められてきています。「興味のある植物があれば、その説明を読んでもらえれば構いません。また日本にもある植物もあるので、そういうことにも気づいてくれると嬉しいです。勿論、説明書きを一つずつ読んで行くことは可能ですが、そこは来館者の自由で、気になるところだけでも読んでくれたら嬉しい」という説明がアーサー・アナルツさんからありました。

ここに展示されている植物は、バルトの人々にはとても大事な植物で、過去には薬草として使用していて人々はそれに助けられてきた歴史があることから、「自然から学ぶこと、過去から学ぶことは大事で、それらを知ることで生命を守ることが可能になる」ということを伝えています。

また、自然に意識を向けていくことが大事なので、ここの展示では、それぞれの植物の細部までじっくり見ることができる様になっています。細かいところをわかりやくす見せるためには、テクノロジーと人間の協力が大事で、光の反射を抑えるスマートガラスの凸面加工技術もその一つです。

絆の壁館内の一番奥にある緑の大きな壁は「絆の壁」と呼ばれるものです。伝統、自然、そしてテクノロジーが融合させたものがこの「絆の壁」なのです。緑色の壁は、その色で人をリラックスさせ、ガラスの表面を持つこの壁をテクノロジーの力で冷やしていくと、ガラスの表面に接する空間にある空気中の水分が冷やされて水滴になります。それを利用して、来館者が絵を描いたりして楽しめる様になっています。よく訊かれるそうですが、この仕組みには水を流している訳ではなく、室内の空気から水分を作り出していて、テクノロジーで自然の仕組みを利用しているのです。

この「絆の壁」を考え出したアーサー・アナルツさんは「多文化のバックグラウンドを持つ人たちが集まるイベントなので、誰でもわかるインスタレーションを作ることを目指した。ここにくれば、誰でも好きなことを描けて、それが数分の内に消えてなくなってしまう。老若男女関係なく、国籍や出身も関係なく、誰もが同じことを体験出来るが、そこから得る感情は人それぞれに違っているはず。この世に自分が存在していることを感じてもらえると嬉しい」とその想いを伝えてくれました。

とにかく5感を刺激させたいと考えたので、植物を見る、画面を触る、自然から録音したバルトの音とバルトの音楽を聴く、サステナビリティーを大事にしたコケや霧、松などの匂いを再現した香りを匂う、と様々な刺激を用意しています。また好奇心が旺盛なら、壁を舐めてみるのもあり。オススメはしませんが・・・ということでした。
また、「このパビリオンにきたら、この「絆の壁」というスペースで座ってリラックスして欲しい。万博会場はとにかく忙しいので、ここにきたらゆっくり何もせずに寛いで欲しい」とも語っていました。

バラビちゃんバルトパビリオンには、バルトの森の本質を体現する、きのこをモチーフにした親しみやすいマスコット 「バラビちゃん」 がいますが、バラビちゃんは森から来た自然のアンバサダーなのです。きのこはこの地域で人気のある山の幸で、きのこのレシピが100以上あり、バルトの人はきのこが好きでキノコ狩りによくいきます。同時に、きのこは幸運のシンボルともされています。名前の「バラビ」はラトビア語とリトアニア語でポルチーニ茸を意味します。
バラビちゃんはまた、菌類が菌糸によって森全体の生態系を地下でつなげているように、人々が世界中でつながっていることを思い起こさせます。お腹にはバルト地域で唯一育つナッツであるヘーゼルナッツを抱えており、来館者はバラビちゃんのお腹をなでることで、バルトの森の魔法を分かち合うことができます。

 

最後の辺りに、ラトビアとリトアニアについて、別々に紹介されていますが、パビリオン内は二つの国を分け隔てなく一つとして展示し、この最後の部分だけを各国に振り分けています。

ラトビアラトビアは、まさに森と湖の国で、伝統や自然との深い繋がりを大切にし、多くの遺産も残しています。
経済発展を追求する中で、ラトビアはイノベーションを中心課題と位置付けていて、スタートアップ、研究開発（R&D）、そしてスマート分野といった高付加価値でダイナミックな産業に重点を置き、ビジネス環境を積極的に整備しています。そうした分野には、バイオメディシン、情報通信技術（ICT）、スマート素材、スマートエネルギーがあります。
ラトビアはデジタル·イノベーションの先進国であり、完全にデジタル化されたビジネス環境を有しています。起業家はオンラインでわずか10分で会社を設立でき、電子署名の普及や完全オンラインの税務申告により、手続きは効率的かつスムーズに行え、ラトビアは「世界で最もスタートアップに優しい国」と言われています。

リトアニアリトアニアは、バルト三国の中で最大の国で、多層的な文化遺産と手つかずの自然が見事に融合する国です。ユネスコ世界遺産に登録されているヴィリニュス旧市街や、松林と巨大な砂丘が織りなす美しい半島「クルシュー砂州」は、その代表例。人口わずか290万人ながら、800以上のスタートアップ企業が存在し、EU域内で最も多くのライセンスを持つフィンテック企業を擁しています。さらに、バイオテクノロジー、サイバーセキュリティ、レーザー技術といった先端産業も発展しています。
首都ヴィリニュスは、持続可能性への取り組みが高く評価され、2025年には「欧州グリーン首都」に選ばれています。市域の60％以上が緑に覆われ、市民のほぼ全員が300メートル以内に公園を有しています。植樹や再生可能エネルギー利用、地域主体の都市緑化を推進する「グリーン·ウェーブ」などの施策を通じ、2030年までに気候中立都市を実現することを目標に掲げ、ヨーロッパの持続可能都市のモデルとなっています。
『世界幸福度報告』によると、2024年にはリトアニアの30歳未満の若者が平均7.6点（10点満点中）を記録し、世界で最も幸福な若年層とされています。国全体としては19位にランクインしながらも、若者世代は未来への希望の象徴として輝きを放っています。

キューブパビリオンの建物は、ぐるっと一回りできる様になっていて、その中にキューブと呼ばれる四角で区切られたスペースがあります。中には大きなモニターがあって映像が流れています。それ以外にはバラビちゃんの好きなものが展示されています。
ガイドツアーの説明が一通り終わったところで最後に、このキューブの中でバルト地域で取れた植物を使ったハーブティーの試飲会があり、ほっこりする瞬間でした

ガイドツアー終了後にラウラ・スラヴィニャさんとお喋りしていた際に、彼女が「山がないこと以外は、四季があるなど多くの共通点があるし、ラトビアと日本は11000キロ離れているけど、一つの国を挟んで隣同士」だと教えてくれました。この発想はとても面白かったです。

バルトパビリオンの展示でどうしても目が行くのが、植物をガラスケースに入れて展示している部分。そのため自然というテーマに引きづられて鑑賞して行きそうですが、実はその裏では、館内のあちこちにテクノロジーが活用されていて、自然とうまく絡みあっています。また、過去の経験値を利用して最先端の産業を育成していたり、社会生活に反映させていたりする両国の現場と、展示内容が綺麗に結びついていることがとてもよくわかるガイドツアーでした。

「バルト三国」として一括りにして社会科の教科書に出てきたリトアニアとラトビアは、歴史と豊かな文化を持った国で、同時に実は世界最先端に進んだ国だということがよくわかりました。

ラウラ・スラヴィニャさん、アーサー・アナルツさん、貴重なお話しを聞かせていただき、有り難うございました。
閉幕までにまた彼らが来日して、同様のツアーを開催してくれることを期待したいです。

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